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From: lunatic moon
<lunatic@hotmail.com>
Subject: 数学の教科書
Date: 2003/08/16 14:34:46
数学の教科書を どうやって書こうか?
という問題を考えてみます。
私も過去に何度か 色々 書いてみたと思った事が在るので、
その時に経験談を踏まえながら書きます。
1 基礎を何処に置こうか?
○ 読者を無視して 論理的に首尾一貫した体系を作る場合
例えば 私が昔 試しに
位相と測度の本を書いてみた時は、
冒頭に徹底的に束論を展開して、
多くの結果を網羅的にその系として導きました。
線形代数を書く場合: 圏上の線型空間対象を定義して....
例えば、sgnの定義は、
Hom(S_n,{±1})の生成元
detの定義は
Hom(GL_n(K),K^*)の生成元
等として話を進めて行く
c.f.Dieudonneの線形代数は、実数を構成する所から話が始まるから
一向に(字義通りに)「本題」に辿り着かない・・・
○ 読者の心理的な状況を踏まえて書く場合
若い頃 初等整数論の本を書いてみた事が在ります。
話を「数える」と言う処から始めました。
数えるという事は 1対1対応を付けると言う処から始まって
集合と写像の概念を導入してEular関数の数え上げ組み合わせ論的計算等を紹介して
数学的構造の例として順序集合を導入して 同型という意味の解説
合同式を導入して 同値関係の意味の説明
数論的関数に畳み込みを導入して、代数系という意味の解説をして再度Eular関数の計算
ここから群論的な側面を意識しつつFermatの小定理
不定方程式を解くという話からp進数の導入 ここで 位相の説明等もして行く
あくまでも不定方程式を解くという立場からDedekind環のideal類群との関連
symbolの計算という見地から K_2群やBrauer群を導入して
中心半単純環の理論を紹介して...
という感じで1次元局所類対論を展開するという感じです。
point:1 論理的には最短距離ではない。
2 予め本に最終目標が在って、それを説明する事を念頭においている。
3 最終目標は在るのだけれども 各段階で目標となる問題が在って
それを説明し得るperspectiveとして新しい数学概念を導入しようと心掛けている。
これは書く為に セミナーをして一年半ぐらい掛かりました。
若さと時間が在ったから出来た事です...
2 ポリシーを表現する見地から
数学の本を書く事は、何らかの意味で (自分にとって)数学とはこんな物だという事を
表明する事になります。その部分を意識的に行って書こうとすると基盤を何処に置くか
章の構成等に変化が生じます。
例 線形代数学を何だと思おうか?
1 vector空間論を 0次元環上のmodule理論
単因子論を 1次元環上のmodule理論 と 解するならば、
始めに加群上のmodule理論が在って その低次元の場合という見地を強調する。
(→Hilbert syzygyを最後に持ってくる。)
2 線型空間論というのは、方法論である。
という意味は、有限次線型空間は基底と係数体で同型類は決定してしまう。
つまり分類論的には非常に単純な話である。
こう考えると一番力点を置くのは、上手に基底を取り替えたりする計算技術の
妙技である。
(→ Lie群やLie algebraの例を豊富に導出して、行列の計算技術などにも力点を置く)
e.t.c...
例 可換環論を展開する場合どうするか?
1 例えば、Atiyha-Macdonald は局所化と完備化という方法論を全面的に前に押し出して
それに有限性の条件がどう絡んでくるかを加味しつつ初学者に入り易い様に
可換環論の基礎を展開した本である。
2 例えば Bourbakiの可換環論は faithfully flat と
極度に一般化されたgraded ringの理論をなるべく早く論じる事によって
局所化や完備化のテクニックを早くから駆使して
有限的な条件の外せる物は、可能な限り外して
(c.f. ideal類群の理論はKrull環上展開する。)
論理的に首尾一貫した姿で、展開している。
(c.f.Hensel的な議論は完備局所Noether環の一貫で言及される。)
3 例えば、algebre locale はイデアル論というのは加群論の特殊な場合である
(→ 交叉重複度というのは 加群に対して定義される物であり、その基本性質は
Torの基本公式から全て導き出される)
という思想の元に可換環論を鳥瞰し、目標である交叉重複度の理論を展開している。
e.t.c...
#このポリシーの表明であるという視点を強調する観点は、
#本を読む時も(私にとっては)楽しいし、
#例えば、次の様な発想も促します。
参考文献などを書く場合や その結果は誰の結果であるかと表明する時
膨大な引用の中から
一番先験的な結果を出した所をreferenceとして述べて、
その他の結果は マイナーチェンジであると断言する事になるとすると、
何処がポイントだと思うかを見極めなければなりません。
(→ 誰かが数学的結果で 何処何処が重要だといったとすると、
それは その人の数学感が垣間見れて(私には)非常に興味深いです。)
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○ 纏め
だらだらと書いてきましたが、何かの分野を勉強したらその分野の本を
書くとしたらどういう章仕立てになるか?を考えるのは勉強になるし
時間が許すなら 何処かに書き留めておいて 後から見ると
こういう見地で見ていたのだなと 今ならこう書くかもしれないなぁ
と色々考えて興味深いです。
補足:数学教育という見地から
かつて 別の数学コミュニティで話題に上がった次の問題を紹介します。
貴方が「自転車ののり方」という本を書いたら目次はどうなりますか?
解答例
1章 準備
(中略)
5章 ペダル
6章 自転車篭
(中略)
12章 座り方
(中略)
32章 ママチャリ
(中略)
付録A 二人乗り
付録B 自転車操業